駐日ベネズエラ大使講演会 報告 3/22
駐日ベネズエラ大使講演会 報告
終始自信に満ちあふれ、経済の新たな段階を強調
トランプの新たな攻撃にも「準備は整っている」
3月22日、「キューバを知る会・大阪」と「リブ・イン・ピース 9+25」の共催で駐日ベネズエラ大使セイコウ・イシカワ氏を招いた講演会が開催されました。テーマは「ベネズエラは新たな段階へ~“7つの変革”を踏まえた提言」です。会場の壁には、大統領就任式(1月10日)でのマドゥーロ大統領を支持し結集したベネズエラ国民の姿を写した写真が何枚も大写しで貼られ、ベネズエラ国内に負けない連帯の熱気があふれていました。さらに、開会前と休憩後に「キューバを知る会・大阪」の「歌おう会」で歌われる「不屈の民」が参加者全員で熱唱され、会場に響き渡りました。
このような中、行われたセイコウ・イシカワ氏の講演ですが、わたしたちが想像もつかないすばらしい内容が報告されました。ベネズエラがマドゥーロ大統領の下、国民との対話を重ね、国民の要求をくみ取り、それを国づくりに生かしていく、その新たな段階を終始自信に満ちた形で講演されました。以下にその概要を簡単ですが、報告します。
米国の介入を跳ね返して勝利した昨年の大統領選挙
やはり講演は、米国によるベネズエラ大統領選挙への介入から始まりました。米国は、今まで何度となく、CIAとUSAID(米国際開発庁)・NED(全米民主主義基金)を駆使して、政治・経済・情報・心理など様々な手段を行使する「ハイブリッド戦争」を仕掛けてきました。最近でもUSAIDを通じて、ベネズエラに政権転覆のために流れ込んでいる資金は2022年で1億5千万ドル(約220億円)に達し、2019年に比べ6倍以上に急膨張しているのです。
今回の大統領選挙においても、その資金のバラマキと米で書かれたシナリオに基づき、ベネズエラの電話システムをハッカーで混乱させ、選挙結果の正式発表がなされる前に、ニセの集計が発表され、さらに偽造された選挙証書までが公表されたのです。マドゥーロ大統領は直ちに毅然とした反撃を行い、法にのっとって最高裁判所に訴え、すべての資料を検証するよう求めました。そして、過半数の支持を得た自らの当選を確定させたのです。
1月10日の大統領就任式では、多くの国民がマドゥーロ大統領の就任を祝うため結集しました。一方野党候補支持者は数千人しか集まらず、その点でも敗北は、はっきりと目に見える形となりました。
米による厳しい経済制裁
ベネズエラに対する経済制裁は、1000以上の項目があります。それらは、一方的強制措置であり、2017年の第一次トランプ政権の時に最大に達しました。国連の人権独立専門家は「ベネズエラのハイパーインフレの最大の原因は米国の経済制裁であり、これは人道に対する罪である」と報告しています。
ボリーバル革命の25年のうち、10年が米による厳しい経済制裁下にあります。最もベネズエラにとって厳しいのは、銀行封鎖です。これにより他国との交易が遮断され、ベネズエラには外貨収入が入らなくなりました。その影響を受け2015年から2017年が最も厳しい状態となりました。2011年と比較したGDPは5分の1に、石油生産は87%減少し、外貨収入は300億ドルから7億ドルになり、生活に大きな影響が出ました。
米国は経済制裁によって揺さぶりをかけて、ベネズエラ国民に政権交代をさせようとしました。しかし、その意図は完全に破綻しています。ベネズエラの野党は制裁を喜びましたが、国民の80%は当然のことですが、反対しています。
コムーナを基礎とした新たな民主主義の発展
ベネズエラ国民は、米による経済制裁によって飢餓と貧困を押し付けられる中で、自分たちの自由を守ることの必要性を自覚し、もっと効率的に進めていくために団結しようという意志を持つようになりました。具体的には以下の方策を実施していきました。
2015年に、祖国システム(民衆の直接の討議と投票により、国民の要求をより的確に取り入れる)。2016年に、クラップ(食糧配給システム)。そしてベネズエラ住宅計画。これらの基礎にあるのは住民の自治組織「コムーナ」(コミューン)における徹底した議論に基づく熟議民主主義。
経済の奇跡的復活
米の厳しい経済制裁がありながら、コムーナの徹底した議論を基礎としたベネズエラ国民の再生の闘いは大きな前進を勝ち取っています。それは経済のいくつかの指標に数字として明確に表れています。
・GDP成長率 24年第4四半期で8.5%増を達成-南米でトップ
・インフレ率―15年前の水準にまで低下
・食料生産-現在スーパー等で売られている食料の85%が国産に
・農業-16四半期連続で成長
・石油生産-1日当たり100万バレルまで復活
・治安の改善-殺人発生率が92%減少
“7つの変革”
マドゥーロ大統領は経済の再生に続いて、未来に向けた祖国の7つの変革を発表しました。この内容を議論する会議が昨年の11月に開催され、350万人が参加し、以下のように決定しました。
1 経済変革 石油依存を超えて産業を多極化。戦略的資源である石油を税制改革などに活用。
2 完全な独立 デジタル化により各種の手続きを一本化。
3 平和・主権・安全保障 米国がガイアナを使って領有している領土(エクソン・モービルが違法に操業)の回復。平和の裁判官をコムーナから選出。
4 社会的変革、福祉、食料配給制度、医療の向上。
5 政治面の変革 コムーナを中心とした人民権力を確立し、政治の透明化を図り、汚職を減らす。
6 エコロジーの変革 包括的な環境政策。災害対策。農業と環境問題を融合するアグロエコロジー。
7 地政学的な変革 ALBA(米州ボリバル同盟)やBRICsを通じて、世界に影響を与えていく。
米の経済制裁に苦しむ全世界の国々
講演の中で、米の経済制裁に苦しんでいるのは、ベネズエラだけではないことも報告されました。今日、世界で30か国が米国の経済制裁下にあります。世界人口の半分が米による違法な制裁下にあり、その影響は、はかりしれません。全世界が米国の支配から解放されなければなりません。
トランプによる新たな攻撃が始まった
3月15日に突如発したトランプ大統領による命令では、14歳以上のベネズエラ人は証拠がなくとも、「トレン・デ・アラグア」という犯罪組織の一員であると決めつけ、国外追放できることになっています。すでに200人以上がエルサルバドルに追放されました。この犯罪組織は、ベネズエラではすでに根絶されていますが、ベネズエラ人=犯罪者とするストーリーに使われています。この追放の根拠としたのは、1798年成立の「敵性外国人法」です。第二次世界大戦中、この法に基づき、日系人が収容所に送られたことでも知られています。全ての市民が持つ正当な権利が侵され、国際法にも反する最悪の決定です。
このトランプ大統領の横暴に対し、マドゥーロ大統領はきっぱりと反対し、拒絶しています。
新たな攻撃への準備は整っている
トランプ大統領の第2期は、第1期以上の熾烈な攻撃(主に「ハイブリッド戦争」)をベネズエラにかけてくるでしょう。しかし、ベネズエラは2015~2017年の脆弱なベネズエラではありません。準備は整っています。その最大の支えは、国際面にあります。新たな友好国ができており、国連総会では、ベネズエラへの米による経済制裁に120ヵ国以上が反対しています。そして、昨年9月には、カラカスに97か国の代表者が集まり、「反ファシズムインターナショナル」の設置が提唱されました。
多極化か一国主義か、主権か従属か、が鋭く問われています。
ベネズエラは決して孤立していません。
<追記>
講演後の質疑応答において、トランプ大統領の新たな攻撃である「シェブロン撤退」への見解が語られました。大使は、シェブロンの問題は短い時間では語りつくせないが、撤退で一番損をするのは米国です。なぜなら。ベネズエラの石油埋蔵量は世界一で、しかもコストが安い。一方米国のシェールオイルはあと5年から10年で枯渇するだろうと。この問題でも自信満々でした。
最後に講演会後の懇親会で少しだけ大使から「宿題に近い助言」を受けました。それは、大使講演会が6年ぶり開催というのは、間をあけすぎていると。ベネズエラの変革は非常に速いスピードで進んでいます。他国が1年かけて達成する変革をベネズエラは1カ月で達成します。なので、2年もたてば全く違ったものになっています。講演会は少なくとも2年ぐらいの間隔で開いてほしい。いつでも大阪に行きますので、とのことでした。是非この宿題に応えていきたいと思います。
<了>
Discussion
New Comments
No comments yet. Be the first one!